佐藤くんは甘くない



「……あ、さひな……さん」

「こ、こんばんは」

「あ、い、う……こ、こんばんは」

「お隣、だいじょう、ぶ……?」

「っ! あ、う、うん」


くすぐったい様な、照れくさい様な気持ちに心が震える。


朝比奈さんはありがとう、とお礼を言った後俺の隣までやってくる。それほど身長の高くない俺でさえ、一つ分頭が低い朝比奈さんを見下ろす。


すると、朝比奈さんも何を思ったのか、俺のほうを見上げたせいで、がっちり視線が合ってしまった。


一度はびっくりしたように目を見開いたものの、それでも朝比奈さんはこっちが困ってしまうほど、柔らかな安心しきった笑みを浮かべるんだから、どうしようもない。そんな笑顔、反則すぎ……。


ああ、やばい。


どうしよう。

心臓壊れそう。

変な汗出てきそう。


何話せばいいんだろう。どうしたら、朝比奈さんはさっきみたいに笑ってくれるんだろう。
いろんな話題が頭を駆け巡るものの、それを一つとして口に出すことはできない。

「……あの、ね」


そんな気まずい沈黙の中、口を開いたのは朝比奈さんのほうだった。

「わたし、きょう……その、なんていうか……佐藤くんが、いろいろ積極的にしてくれたのに……逃げっちゃってごめんなさい、です」

「……いや、俺のほうこそ、いろいろ……ごめん」


絶対不自然だったし。

朝比奈さんのほうこそ、こんな風にぐいぐい馴れ馴れしくされることに、嫌気がさしていないだろうかと不安になる。


朝比奈さんに嫌われるのは、とても苦しい。


「さとうくんが、ね。隣にいると、いっぱいいっぱい話したいこと、あるのに全部パンクしちゃう……んだ」


「え」