「今から、私とはぐれちゃったひまりちゃんが佐藤くんに遭遇するから」
「今いるやん」
「今からはぐれるんだ」
「隣にいるのに?」
「空気読めよこのカス。こんなチャンスまたとないだろうが」
「……え? あ、ああそういうことね」
ようやく納得したように、恭ちゃんが頷く。まったく呑み込みの遅いヤツめ。
「ひまりちゃん、いい? はぐれちゃったーということを装いながら、佐藤くんのところに行くんだよ。私たち、もうバスのほう戻るから」
「え、え……?」
「ほら、早く早く! 佐藤くんが恭ちゃんの帰りが遅いってこっち来ちゃう前に!」
戸惑うひまりちゃんの背中をぼんぼん押して、せかす。ひまりちゃんは何度も私のほうを振り返りながら、涙目になって応援を求めてくるが、あいにくここから先は私の出番は一切ないだろう。
心配は大いにあるが、ここまできて二人の様子を陰ながら見送る、という選択肢は私にはなかった。
最後の一押しをして、ひまりちゃんは意志を固めたらしい。ぐっとこぶしを握り締め、胸の前にあてて何度も深呼吸をしながら、数歩前に。
そして、私のほうを振り返る。
「ありがとう、こはるちゃん」
そういって、ひまりちゃんはずんずん佐藤くんのほうへ歩いて行ってしまった。
私の右手がそれを遮るように、彼女の背中に向いていたことに、知らないふりをしながら。



