「…………だめ」
びっくりしたように、え、と声を上げたのは誰だったのだろう。
佐藤くんは、ひまりちゃんの手を掴んで、私に向けられていたフォークを自分のほうに向けて、そのまま自分の口まで持ってくると、ぱくりと、それを口に含む。
そして、何度か咀嚼した後、
「ありがと」
と小さくお礼を言って、自分の料理にしれっと戻る佐藤くん。ひまりちゃんといえば、御顔を
真っ赤にしたまま固まり、そのままフォークを持ったまま、立ち上がる。
ちょ、ひまりちゃん!?
何事かと思えば、ひまりちゃんはちょっと涼んでくるね……と小さく言って、フォークを持ったまま行ってしまった。フォークを持ったまま。お店をでる瞬間に、店員さんが二度見するほどだった。
私はひまりちゃんが見えなくなった後、大丈夫だろうか、と改めて不安になりつつ振り返る。もちろん視線は、ドリアから手を離し両手に手を当てて、絶望している佐藤くんだ。
「ちょ、佐藤くん……どうしちゃったんですか!?今の、今の!」
「男だけど不覚にもどきっとした」
「……」
佐藤くんは、興奮気味に話しかける私たちの言葉など耳にも入らない様子で、大きくため息をつき、なぜか備え付けで置かれていたフォークに手を伸ばす。
そして、私のほうを振り返って、死んだ魚のような瞳を泳がせ、引き攣った笑みを浮かべ、言った。



