そして、ひまりちゃんをその瞳に捉え、固めていただろう意志が若干揺れるのが見て取れる。ギギギ、と振る錆びたような効果音が聞こえるんじゃないかと思うほどぎこちなく顔を逸らして、佐藤くんは震える唇を動かす。
「……お」
「あん?」
「え、がお……」
「聞こえないねぇ」
「えがお!!」
「ぶっ」
「ぶっ」
煽りまくったせいで、真っ赤な顔をした佐藤くんが思わず立ち上がる。それをみて、吹き出す私たち。
佐藤くんははあ、はあ、と大きく肩で息をしながら恥ずかしそうに唇を噛みしめ、それからざわめいていた新幹線の中が、静まり返り、自分に視線が降り注いでいることに気付いたらしい。
「……トイレ!」
とだけ叫ぶと、走って行ってしまった。いや、そんなでかい声で叫ばんでも。
「いやー、確かにひまりちゃんの笑顔は可愛いもんしかたないよねぇ。ね、ひまりちゃ……ちょ! ひ、ひまりちゃん!?」
苦笑いしながら隣を見やると、ぷしゅうと蒸気機関車が発射するような汽笛の音が聞こえてぎょっとする。ひまりちゃんが顔を覆って、これ以上にないくらい顔を真っ赤にしていたからだ。
「だ、大丈夫?さっきの聞いてた?」
「あう、うん。や、やっぱり京都に行ったらわんこそば食べるって話、だよね?」
「ひまりちゃん、わんこそばは京都じゃないから岩手だから」
「え!あ、ご、ごめん。なんだか頭混乱してて……あ、こ、これもらうね」
「ひまりちゃんそれ飲み物じゃないから!ガムのケースだから!」
そして、新幹線の中でひまりちゃんを諌めるのに目的地である京都に着くまでかかった事を、おそらく他県のトイレくらいまで探しにいっていたと疑うほど長い時間トイレにいた佐藤くんは知らない。



