恭ちゃんは、濡れてしまうのもお構いなしに私の頭をほんの少し触れる程度に優しくなでてくれた。そして、ふわりと、そのままそっと引き寄せて、自分の胸にぽんと閉じ込める。

恭ちゃんの温もりと、嗅ぎなれた優しい柔軟剤の香りに頭が真っ白になった。

ワンテンポ遅れて、押し返そうとすると、恭ちゃんはそれ以上に強い力で私のことを抱き寄せる。


「今日は、雨が強いから……拭いても、拭いても濡れるからさ。だから、俺の胸で雨、拭けばいいよ」



視界が、一気にぼやける。

ぶわっと熱いものが、瞳からぼろぼろ落ちていく。


「う、ん……あめ、強いせい、だよ」

「うん」

「……ない、てないよ……っ」

「うん、ハルは泣いてなんていないよ。これは雨だから」


ぎゅっと、恭ちゃんの服を握りしめる。

くぐもった声が、雨と一緒に零れ落ちる。ぽんぽん、と私の頭をなでるその優しさにまた、雨がいっぱい流れていく。

そして、雨脚もだいぶ弱まってきた後、私は、ぎゅっと恭ちゃんの服をひっぱると、それまでずっと撫でてくれていた手を止める。


「きょう、ちゃん」

「どうした……?」

「…………あり、がとう」

数秒の間、恭ちゃんは小さく笑って、答えた。


「ばぁーか、お前の傷心付け込んでやろうって、下心だよ」


そうやって、照れ隠しに悪ぶってみせるのも、変わらない。



私は、そうっと右手につけられた指輪に触れる。一瞬、ためらう心が手を止める。

でも、やっぱりこれをつけたままではいられない。

一度止まった手を再び動かす。するり、とそれは私の薬指から抜ける。


ぎゅっと握りしめて、私はもう一度誓った。