佐藤くんは甘くない



……私の言ってたこと、覚えてたんだ。


演劇が始まる前、恭ちゃんと見回りをしていた時のことを少しだけ思い出して、小さく笑う。私の幼馴染は、本当におせっかいで、びっくりするくらいいいやつだ。

恭ちゃんのところに駆け寄って、壁にもたれかかるようにして座ると、恭ちゃんが箸とたこ焼きの入った透明のトレーをくれた。ありがたく受け取って、ふたを開くと香ばしい鰹節の匂いが鼻を掠める。


箸でつまんで、一口食べると、かりっとした皮と中のとろっとした生地が口の中いっぱいに広がって、自然と頬の筋肉が緩む。


「……ふっ、」

「どしたの?」


突然隣に座っていた恭ちゃんが笑ったので、進めていた箸を止めた。

すると、恭ちゃんは口元を押えながらくすくす笑いながら、


「ハルって、飯食ってるとき幸せそうになるから、おかしくて」


「うるっさいな!美味しいものを美味しいと思って何が悪いんだ」


「ごめんごめん」


むすっと頬を膨らます私をあやすように、恭ちゃんがまたぽんぽんと頭をたたく。うぐ。これをされると、反論をする気も失せてしまう。

私はじっと、膝に乗せたたこ焼きの鰹節がゆらゆら揺れるのを眺めながら、


「あのさ」

「ん?」


「………………あり、がとね」



反応がない。

声が小さすぎて、聞こえなかったかな、と不安になって顔を上げて───私の頭に乗っていた恭ちゃんの手が、ぐっと押されて、首が捥げるかと思った。


痛む首筋を押えながら、文句を言ってやろうと、口を開きかけて、


「たこ焼きのこと?」


と、無理やりに言葉を重ねられる。