佐藤くんは甘くない



小さく音を立てながら、ドアを開ける。

きっともう、クラスのみんなは着替えてほかの出し物を見に行っただろうから、誰もいないだろう。


そう思って、顔を上げて、私は固まる。


……どうして、こんな時に。

ずるい、ずるいよ。




「───遅い」





少しだけ不機嫌そうな低い声が風に乗って、私の耳を掠める。

視線の先で、窓にもたれかかって眉を寄せる佐藤くんの姿が、そこにはあった。


……いやだ。嫌だ。

今、佐藤くんのそばにいたくない。

近づいてしまったら、私はますます欲深くなってしまう。そうなる前に、早く離れなきゃ。本能がそう告げる。


なるべく明るい口調を、普段通りの私を無理やり偽って、話しかける。

「佐藤くん、もしかして見張り番、クラスの人に押し付けられたんですか?」


私がそう聞くと、佐藤くんはまたあの表情をする。思う言葉が、口に出ないもどかしさを堪えるみたいに、小さく頷く。


「それで佐藤くん、教室残っていてくれたんですね。すいません、もう施錠するので見張り番交代で大丈夫っすよ」


「……あ、」


「私も鍵閉めたら委員会の仕事が残ってますから」


本当は、嘘だ。

実行委員の仕事なんてない。そうやって言い訳をつけなければ、この場から逃げ出すすべが見つからなかった。