そんな彼女を振り返って、苦笑するギル。

その笑みは、あきれているというよりも、器の大きすぎる姫様相手に、自分がこれからずっと尻にひかれて暮らしていく日々を想像して、自分があんまりにも不甲斐なかったから。

再び仕事を始める白雪姫を横目に、部屋を立ち去ろうとドアへ向かう。


そして、ドアノブに手を掛けた、その時。



『───そういえば、言い忘れていたわ』


『……え?』


後ろから白雪姫の声がして、ギルが振り返る。すると、口をとがらせた白雪姫が立ち上がってずんずんギルのほうへ歩きはじめる。

おどおどしたまま、目の前に腕を組んで仁王立ちする白雪姫を見下ろす。


『ギル、あなた、いい加減私のことは白雪と呼べと言っているでしょう。それにあなたも王子になるのだから、私に敬語は不要よ』

『え』

『あと、私はまだあなたの口から私を守るという言葉を聞いていないわ』

『そ、それなら何度も言ったと……』

『それはまだ正式に私の護衛として雇っていないときの話よ!それはそれ、これはこれ!』

『……しかし、』


何とか言い逃れようとするギルに、白雪姫は白い頬をぷくっと膨らませてほしいものを買ってもらえない子供みたいに駄々をこねる。