ギルは何も言わず、じっと白雪姫の瞳を見つめる。

白雪姫はくすくすと、ギルの堅物さを笑うかのように小気味のいい笑い声を響かせた。


『それに、彼を止めて、殺さない代わりあなたに護衛を務めてもらえるようになったのだから、私は満足よ』

『……っ』

『私、ギルのこと好き』


あまりにも唐突に、白雪姫はそういった。

さっきまであれほど気難しい顔をしていたギルの顔が、だんだんと赤く染まっていく。手に持っていたポットを落としそうになるほどの慌てっぷりだった。

ギルのその様子を楽しそうに眺める白雪姫。

ギルは大きく咳払いをすると、白雪姫を睨み付けて、


『……まったく、白雪様は』


とため息交じりにそういった。自分が照れているところを見られたくなかったのか、ふいっとそっぽを向いて白雪姫から顔を見られないようにしてしまった。


『ねえ、ギル』

『……なんですか』

『私はきっと、あの人を許すことはできない。いかなる理由があったにせよ、私の父を殺め、母も病魔に侵されてしまった。だから、たぶん一生彼を許すことはできない。

 ……だからね、ギル。
 あなただけはあの人の味方でいてやりなさい。これ以上あの人が、自分の手を汚さないように』

しばらくの沈黙の後、

『…………はい』

ギルはその誓いを胸に刻むかのように、はっきりと頷く。


『今日も行くんでしょう。彼のいる牢獄に』

『……』

『私の護衛とはいえ、あなたはもうすぐ隣国の王子としてもいずれ頂点に立つのだから、罪人の彼とはあまり長い時間は会えないわよ。ちゃんと気を引き締めなさい』


彼女はそれだけ言うと、もう冷め切ってしまった紅茶を一口。