『しら、ゆき……』
触れた手のひらが、だんだんと離れていく。剣士は消えていく体温を引き留めようと、震える手で彼女の手を握りしめようと必死にもがいた。
けれど、それはむなしくすり抜けて、彼女は顔を伏せたまま立ち上がる。
そのすぐ後ろに、王子が立っていることも知っていたのだろう。
怒りを押し込んだ声で聞く。
『約束して。彼を助けると』
自分の父親を殺し、母を病で犯し、次々と自分の親しい人間を殺していく相手にすら、彼女はただただ気丈に振る舞っていた。
かすかに震える声が、抑えきれない怒りを意味していることも、王子は知っていた。
だからこそ、釘をさすように言って見せたのだ。
『いいよ、君がおとなしくついてきてくれるなら』
その言葉は呪いのように、彼女を縛り付ける。それは永遠の楔だった。
淑女をエスコートする紳士のごとく、彼女の手を恭しく掴み取ると自分のほうへ向かせた。白雪姫はそれでもなお抵抗するように、王子をきっと恨みを込めた瞳で睨み付ける。
『怖いな、まるで狂犬みたいだよ?』
『……それなら、せいぜいかみ殺されないよう、祈ることだわ』
『あははは、それは怖いなァ』
へらへらと、嗤いながら抵抗する白雪姫を見下ろす。その視線は、限りなく研ぎ澄まされ、背筋すら凍るほど冷たいものだった。



