佐藤くんは甘くない



重い、重い静寂があたりを包み込む。

茫然と立ち尽くしたまま動けない剣士を横目で見た後、彼女は顔を歪めながらほほ笑む。あまりにも痛々しい、笑みで。


『わかってるの。本当は、怖かっただけだと。

 私なんてちっぽけな存在ではきっと、あの王子には勝ち目なんてない。心の中を憎しみで満たして、復讐にどれだけ焦がれたとしても、私はいずれ蜘蛛の巣に囚われる。

 逃げる以外に、方法なんて見当たらなかった。

 
 頼れる人も、もう、いない。

 私はずっと、ひとりのまま』


『……』


『……本当のことを言うとね、あなたがたとえ形だけの契約だとしても、私を守ってくれると、誓ってくれたことが、嬉しかった。私はひとりじゃないんだって、思えたから……だから、ありがとう』


大切な人が消えていく恐怖に肩を震わせながら、自分の味方なんて誰もいないんだと真実を突きつけられて、必死に逃げ惑う彼女にとって、剣士の言葉がどれだけの支えになったのか、剣士はわからない。


ただ、その泣きそうな表情が剣士の心をえぐる。

そう、誓いは形だけ。


剣士にとっての本当の主は───王子なのだから。