『お父様は、部屋のドアを閉めると何か私に言おうと戸惑っているようだった。そして、口を開きかけた時だった。
ドアのノックする音がしたの。それから、王子の声で今お話しよろしいでしょうかっ、言ったわ。あんなに王子を可愛がっていたお父様は、その声を聴くなりとてつもなく焦っていたわ、いやむしろ怖がっているようにも見えた。
それから、私をクローゼットの中に入るように言って、私がいいというまで出てきてはいけないよ、と言いつけた。おかしいと思ったわ。……何かあるってね。
本当に、その予感は的中したわ。
偶然少しだけあいていた隙間から、そっと覗きこむと王子とお父様が何かを話し合っていたの。王子は笑顔だった。けれど、いつもの笑顔とは違ったの。冷たい、氷みたいな瞳だった。
お父様がだんだん追いつめられていくのが見えた。王子はそんなお父様に向かって、剣を抜抜いたわ。それから、本当に残念ですあのことを知らなければ、殺さずに済んだのに。そう言って、お父様の───』
それまで淡々と語っていたはずの彼女は、そこまで言いかけて止まる。
恐怖なのか、憎悪なのか、手を震わせぎゅっと握りしめる。また、彼女の瞳には涙がたまり始めていた。
『私は、何もできなかった。怖くて、声も出なかった。あの場で、私が飛び出していたらお父様はっ、死ななかったかもしれないのに、私は……っ何も、できなかった。ただ、その場で身を潜めるのが、私の精いっぱいだった。
…………本当に、私はバカだったのよ』
『姫様、』
『私は、ぬくぬくと城で育ってきて、人を疑うことなんて、知らなかった。みんなが私の味方だと思っていた。隣国から来た王子のことも、そうだと思っていたのよ。お父様が殺され、いつか王子に復讐してやると誓ったその日から、どんどんおかしくなっていったわ。
お母様がいきなり、病気で倒れ、私の信頼できる人たちが次々に、病死や事故死で消えていく。全部、あの王子が仕組んだことなのだと私は知っていた。
……私がなんで、腹黒姫って呼ばれているのか……あなたは知ってる?』
自嘲気味に、腹黒姫は目を細めながら言う。



