静まり返った、その場所で彼女ははるか高くに浮かぶ月を見上げて、目を細めながら語り始める。
『───お父様が殺された夜も、こんなぼんやりとした月夜の日だった』
『……ころ、された?』
剣士の表情が固まる。
じっとこちらを見つめたままの彼女へ、動揺したように上ずった声で聞く。
『俺は不運な事故で亡くなったのだと、聞かされれていました。殺されているなんて、そんな』
『表向きには、そう。けれど、私はこの目で見たのよ。お父様が殺されるその瞬間を』
『……それは、』
信じられない、とでもいうように目を見開き、言いかけた言葉を剣士は閉ざした。しかし、その真実を突きつけるような口調で腹黒姫は言う。
『あなたの本当の主である、王子に、お父様は殺されたのよ。
お父様はね、ずいぶんとあの人を気に入っていたわ。何度か城に招き入れてはよく食事会もしたし、私の誕生パーティーにももちろん呼ばれたの。
その日だった。
誕生日パーティーが終わって、私が自分の部屋に戻ろうと廊下を歩いていたとき、随分慌てた様子でお父様が私のほうへ駆け寄ってきたのよ。何かと思って聞いてみたけれど、お父様はいいから私の部屋に来なさいと、私は半ば強引にお父様に連れて行かれたわ』
おそらく、繋がれたであろう左手をすっと伸ばし月に透かすように照らしながら、彼女は語り続ける。



