そっと、剣士が腹黒姫を見上げる。
一瞬不意を突かれたように、彼女の瞳は潤んでいた。それは、一時であったとしても自分を守ってくれる、自分のそばにいてくれる人を見つけた子犬のように。
『……ほんとう?』
『はい』
剣士が頷く。
『……どんな危険に晒されても?』
『はい』
『どんな不条理が私を追い込んでも?』
『はい』
『……ひとつだけ、命令をしてもいい?』
懇願をするように、彼女は言った。胸におかれたその白い手の平は、強く強く握られていた。剣士はもう一度自分の主を見上げて、力強く頷いた。
『何なりと、姫様』
その言葉が、どれほど彼女の支えになったのだろう。
腹黒姫は、ぎゅっと握りしめた手のひらを震わせながら、静かに涙を零す。それは憎しみに対する涙でもなく、悲しみに対する涙でもなく、一人ぼっちでどうしようもなく立ち尽くしていた不安から抜け出すことのできた、安堵の涙だった。
そっと、顔を上げる。
『どうか、今から私が話すことを信じてほしい。
今だけでいいから、信じてほしい』



