彼女がいた、その場所には、
『……いない?』
人影は、なかった。
ぞろぞろと集まってきた兵士たちが、気のせいだったんじゃないか、そのへんのきつねか何かだろうと話に折り合いをつけると、また来た道を帰っていく。
ゆっくりと照明が落ち、ある一点にスポットライトがあてられる。
『……行ったか』
そうつぶやいたのは、剣士だった。
腹黒姫を抱え込むように、口を押えながら、大きくため息をついた。腕の中で暴れる腹黒姫に気づくと、慌てて彼女から離れる。
彼女は暗い中ですらわかるほど顔を赤らめて、剣士から離れる。乱れた髪を直し、フードをかぶり直し、ついた土ぼこりを恥ずかしまぎれに払った後、小さな声でつぶやく。
『…………あり、がと。あなたが来て、手を引いてくれなければ、今頃私はあいつらにつかまっていたわ』
『いえ』
『なんで、助けに来たのよ』
『……は?』
『私、あなたに叫んで一方的に……子供みたいに、怒ったのに』
バツが悪そうに、剣士から顔が見えないようフードの先を引っ張りながら腹黒姫が言った。すると、しばらく周りに警戒するように見回していた剣士が、ぷっと吹き出す。そして、おなかを抱えて肩を震わせた。
『ちょ、何も笑うことなんてないじゃない』
『い、いえ。俺の聞いていた姫様と目の前にいる姫様があまりにも違いすぎるので、なんだかおかしくて』
『……ふん』
そっぽを向く彼女をよそに、しばらく笑い続けた剣士は、小さく息を吐いた後彼女の前に跪く。それは、忠誠を誓うように。
『俺は、今あなたの盾であり、剣だ。あなたが危険に晒されたのなら、俺は命がけであなたを守ると誓います。俺は、あなたの剣士です』



