『……なるべく、音をたてないように、ゆっくり逃げれば……』
音をたてないように、ゆっくりと立ち上がり、息をひそめながら一歩、一歩とその場から離れ始めた、その時。
───パキ。
体育館中に、緊張感が走る。
ただ小枝を踏んでしまっただけにも関わらず、遠くのほうでその音に反応して、足音が近づいてくる。
『にげ、なきゃ』
そうつぶやくものの、彼女の体は恐怖で動かないのか、進む速度も遅くなる。そんなのお構いなしに、足音は近づいてくる。
彼女は木の幹に体を隠すように、震える自分の体を抱きしめる。
足音はやがて、2メートル、1メートル、だんだん差が埋まっていく。
複数人が持っている薪の火が、すぐ近くまで照らされる。そして、その時はやってくる。
『そこにいるのは、誰だ!!』
野太い声とともに、一斉に松明が腹黒姫の方向へ向けられた。



