当然のように、彼女の後ろをまた、剣士は歩き始めた。
しばらくの間、静寂が彼らを包む。そして、彼女の後ろを歩き続けていた剣士がぴたりと立ち止まった。
自分のすぐ後を追っていた足音が消えたことに、不思議に思ったのか腹黒姫が足を止める。振り返った先に、顔を伏せて何か聞きたそうに口元をゆがめているのがわかった。
『……ひとつ、聞いてもいいでしょうか』
『……』
彼女は、何も答えなかった。
けれど、足をもう一度進めなかったことを肯定と受け取ったのか、剣士はゆっくりと顔をあげて真正面から彼女をとらえた。
頼りない月明かりが、白い彼女の肌を浮き立たせ、今にも壊れてしまいそうな儚げな雰囲気がより一層際立つ。
『姫様はなぜ、王子を避けるのでしょう』
『……』
『失礼だとは存じますが、あなたの国が今、苦境に立たされていることは姫であるあなたが一番理解しているはずだ。国王は亡くなられ、王妃も床に伏せている状態。あなたが一国の姫であるのなら、国の繁栄を第一に臨むのが本望でしょう』
『……』
『王子は、あなたを助けたいと思っている。それなのに、どうして、』
『───黙りなさい』
ぴしゃり、と吐き捨てられたその言葉は、あまりにも無常で、冷徹だった。



