その声を聴くと、彼女は力を込めていた剣をゆっくり下ろしていく。
その瞬間、
『確か隊長はこっち側に向かったはず』
『一度隊を編成し直して、明日に備えたほうが』
複数人の声と、足音が響き渡る。それは次第にこちらへ向かってくるかのように、大きくなっていく。
腹黒姫は、音のする方を振り返って恐怖に顔を歪める。それが追手であることを、本能で理解したから。
『……な、なに』
『王子の近衛部隊だ!まずいな、ここで出くわしたら俺一人じゃ、太刀打ちできない』
『……私を無理やりにでも連れて帰る気?』
腹黒姫は、しゃがみこんで、地面に置いた長剣を拾い上げる剣士を警戒するかのように、短剣を剣士に向ける。しかし彼は、拾い上げた剣をもとの位置に戻すと彼女を見上げて、小さく笑う。
『仮とはいえ、貴方に従うと誓った身。忠誠は最後までお守りします。貴方が自ら城へ帰りたいというまでは』
『……』
『何なりとご命令ください』
彼女を守る騎士のごとく、彼は頭を下げる。
足音はすぐそこまで来ていた。彼女にそれを選ぶ暇も、そして選択肢も、無かったのだ。
『───私を、守って』
いずれ自分を連れ帰ろうと、強敵が現れるだろう。それをか弱い一国の姫がどうこうできるわけもない。彼女は、誰かに頼るほかなかった。たとえそれが、自分の敵であっても。
『御意』
剣士はそういって、立ち上がると彼女の手を掴む。
『少々走ります。足元を気を付けて』



