佐藤くんは甘くない



『おい、何をしている!』

『触るな!』


鋭い声とともに、彼女は抜き取った短剣を自分の首筋に這わせる。その手がかすかに震えているのは、恐怖からか興奮しているからなのか。

ただ、彼女の目の前にいる剣士を見据える瞳は、あまりにも真に迫っていた。


『私をあの城に連れていくと言うのなら、私はここで死ぬわ』

『何を……っ』

剣士は冷静さのほつれた様子で、彼女に手を伸ばしかけて───

『───来るな!!これ以上私に近付くというのなら、私はここで死ぬわ!』

『……っ』


そう、彼女は自分自身を人質にすることで、剣士の手から逃れようとしていたのだ。

あくまで城に連れて帰ることを前提として、駆り出された兵たちにとって、自殺するという言葉はあまりにも効果的だった。剣士は、苦渋の表情で彼女を見つめる。

そして、彼女の一切揺るがない瞳の奥が、これが本当であることを、嘘偽りでないことを確信させた。


自分が無理やりに連れて帰ろうとすれば、たとえこの状況を切り抜けたとしても、城についた後か、それとも連れている途中か、彼女は必ず自分を殺す。


『……分かった』


剣士は、自らの腰に当てがっていた剣を抜き取るとそれを目の前に放り投げる。かんっとその剣が地面で二度跳ね上げるのを見た後、ゆっくりと両手を上げる。


『貴方に従います、姫様』