佐藤くんは甘くない



鋭い音とともに、池の主が後方へ何度も跳ね返りながら吹っ飛ばされる。

じりじり腹黒姫がにじり寄ったかと思うと、たたかれた頬を押さえながら池の主は両手を突き出してぶんぶん振る。


『じょ、冗談ですすいませんマジでスイマセン!』

『大丈夫、はじめてはちょっと痛いけどすぐに良くなるから』

『え、それなに!?なんのことを言ってるの!?ま、ま、やめ、やぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ』


池の主の断末魔とともに、暗転する。

そして、舞台上から袖へ戻ってくる人影が見える。よく目を凝らしてみなくとも、それが観客の笑い声にほっと安堵したように笑いあう池の主役の丸山くんと、腹黒姫役の仙田さんだった。


仙田さんは一瞬、私の顔を見て気まずそうに視線を逸らした。

もう恭ちゃんとのことも、終わってしまったことだ。今更引きずるほど私も度量の小さい女じゃない。


「お疲れ様」

ぐっと親指を立てて、にんまり笑ってやると、面食らったように目を見開いて、それから恥ずかしそうにふんとそっぽを向いてしまった。少し吹きだしそうになる。

なあんだ、仙田さんも可愛いとこあるじゃん。