「はいはい、注目ー」
小声で、恭ちゃんが手を振りながらそういう。
役者や裏方の人の視線が集まる中、緊張で固まるクラスメイトを励ますようににかっと口元に笑みを浮かべる。
「今日までやってきたこと、全部ぶちかましてやろうぜ。ファイトー!」
おー!と、小声でみんなが一斉に片腕を上げる。
その時を見計らったかのように、開演のブザーが鳴り響く。
私も前を向いて、頼りない電気スタンドに照らされた原稿に目を落とす。なんとなく視線を感じて、後ろを振り返る。
ぼんやりと黒く浮かびあがった影が、じっとこちらを見る。目が合った、と思う。真っ黒で瞳なんて見えないのに、その視線は私を射抜くようにこちらを見ていた。
佐藤くんだった。
何かを言いたげに、一歩前に出てくる。でも、思いとどまる様に今まさに踏み出そうとしていたもう一方の足を引っ込めてしまった。
そして、くるりと踵を返すと、暗闇の中に消えて行ってしまった。
いつの間にか、肩に力が入っていたらしい。
私は何度か深呼吸をしてもう一度、原稿に目を落とす。
……今は、劇に集中しろ、結城こはる。
───そして、ゆっくりと、照明の灯が照らされていく……。



