佐藤くんは甘くない




は?


……は?



「ちょっと、どきっとした?」


佐藤くんがくすりといたずらを成功させた子どものように、笑う。

じわじわ、と今起こったことが頭の中で整理され始める。劇、セリフ。

私に向けて言ったわけでもなくて───ただの、演技。


いつの間にか、握っていた櫛が折れそうなほど手に力が入っていく。

肩がわなわな震えて、どうしようもない感情が、取り留めなく心から溢れ出していく。


「劇なんて、いつもナレーションしかしないから、うまくできてるか分からなくて」


分かってる。

これが、佐藤くんなりの冗談だってことも。

そして、それがいままでの何も気づかなかった私なら、きっと笑い流してくれるって思ってるからこその冗談なんだってことも。



悪いのは、私の方。

私が勝手に勘違いして、私が勝手に期待して、私が勝手に舞い上がっただけ。だから、何も悪くない。佐藤くんはこれっぽっちも悪くない。でも、それでも。



筋違いだ。

……何も知らない佐藤くんに、こんなことを思うなんて、筋違いだ。


でも、私は思う以上に大人には、なりきれない。