「───お前が好きなのは、俺じゃないよ」







ざあああっと、唸るように風が吹く。

それはとても強く、私の髪を振り乱していく。風にかき消されてしまえばよかったのに。私の鼓膜は、その声を聞き入れてしまった。


「───ちが、」


考えるよりも先に、言葉が出る。ああ、だからなんで。どうしてこんな時に彼の顔が思い浮かぶんだ。なんで、どうして。どうして、どうして。


「ちが、う違うよ」


どうしてこんなに、手が震える。どうしてこんなに、私の頭は混乱するんだ。否定する私を肯定してほしくて恭ちゃんを見上げる───そして、固まった。


「俺は、好きだよ。ハルが好きだ。


 ……だから、ハル答えて」


恭ちゃんが、笑っていた。ただただ儚げに。もうすべてを分かっているような顔をして。思わず顔を伏せる私の頬を、そっと両手で包み込んでゆっくりと上げさせる。そして、もう一度笑う。


そして、その時馬鹿な私はようやく分かった。

覚悟を、決めていた。恭ちゃんは全部、覚悟を決めて私を好きだと言ったんだ。


私ですら知らない私の気持ちに、気付いた上で。



「ぁ、」


「お願い、答えてハル───ハルは、誰が好き?」



涙が、こぼれ落ちる。

私は、私は。