佐藤くんは甘くない




もう一度呼ぶ。

それはあまりにも小さくて、降りやまない雨の雑音にかき消されるほどか細い。もう一度、すうっと乾ききった喉に空気を通す。




「───きょう、ちゃん」





そうつぶやいた、その時。







「───結城っ!!」



ぼんやりとした視界の中で、ドアが開くのが見えた。その人影は、私を見るなり焦ったように駆け寄ってくる。


私は無意識の間に、その人影に手を伸ばしていた。まるで何かに縋るみたいに。

触れた手はほんのり湿っていて、もしかしたら私のこと探しに来てくれたのかな、と回らない頭で場違いに思ってみる。安心するほど、温かな体温。


私はこの体温を、知っている。



「なにやってんだよ!おい、結城っ、結城」



視界が霞んで、力強く揺さぶられているのだけは分かった。人影が、私の顔を除きこむ。ぼんやりとした視界の中で───瀬尾恭也が、何度も私に呼び掛ける。