しん、とあたりが静まり返る。


大通りから外れたこの道には、人も車も通らないせいか聞こえるのは川の水が流れるかすかな音だけ。


私は、ぼうっと上を見上げて淡い月の光に目を細める。


「ねえ、瀬尾」


「んー?」


「…………ううん、なんでもない」


私は、その時何を言おうとしたんだろう。


あの時、瀬尾はなんて言おうとしてたの、だろうか。

でも、意気地なしで弱虫で卑怯な私はやっぱり、聞けなかった。


聞いてしまったら、きっと、もうこのまま瀬尾の隣にいれられなくなっちゃうから。



「疲れた」


「お姫様は黙って寝ててもいいですよー」


「うむ、任せたぞしもべ」


ぎゅっと、瀬尾の首にまわした腕に力を入れて私は肩の力を抜いて、彼に身を寄せる。


瀬尾の背中は温かくて、ムカつくくらいに、安心してしまう。




そんな自分が、大嫌いだった。