佐藤くんは甘くない



「柚月は、最期の最後まで俺のことを思ってくれてたんだ。

 苦しかったはずなのに。辛かったはずなのに、それでも、馬鹿な俺を追いかけてくれた。

 
 ……ほんと、だめなお兄ちゃんだった。柚月が妹だなんて、勿体ないくらい。だめな、お兄ちゃんだった」


瞼の裏で、顔すら知らない、柚月ちゃんのその時の光景が浮かぶ。

遠ざかっていく、小さな佐藤くんの背中。ドアの閉まる音。


熱で頭がくらくらして、息だって上がって、それでもお兄ちゃんのためにっておぼつかない足を動かして。


大好きな、お兄ちゃんのために。


きっと、サプライズしたかったんだろう。お兄ちゃんに見つからないように描いた絵を、手に握って。壁を伝いながら、何度も転げそうになりながら。


それでも、佐藤くんを追いかけようとした。



「……ごめん」


佐藤くんの、絞り出すような声に、私の息も詰まりそうだった。


「ごめん、ごめん……っ、ごめんな、ごめんな、柚月。

 だめなお兄ちゃんで、嘘つきなお兄ちゃんで、ごめん」



震える肩を、抱きしめたら。

そうしたら、きっとだめだ。これはきっと、すべて佐藤くんが、背負うべき辛さで、痛みで、想いだから。


柚月ちゃんが、最後まで思い続けた思いで、早苗さんが、最後まで伝えようとした言葉だから。


私は、何も言えない。

佐藤くんのそばにいてあげることくらいしか、できない。