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「柚月は、きっと俺のこと恨んでるんだって思ってたんだ」
ぽた、ぽた、寂しい音が響く。
よく、目を凝らしてみると小雨が地面へと降り注いでいるのが、見えた。しっとりとした空気のせいで、縁側の廊下は手で触れると冷たい。
佐藤くんは、ぼうっとそれを見上げながら、独り言のように呟いた。
「あの時、柚月が妹じゃなかったらって、柚月がいなかったらって、柚月が大嫌いだって、言ってしまった時。
……ああ、もう、柚月にお兄ちゃんなんて呼ばれる資格、ないんだって思ってた。
俺は、あいつの兄で、大切な家族で、守るってあげなきゃいけなかったのに。……だから、恨まれてもしょうがないって、思ってた。思い続けてた」
「……」
佐藤くんが、折りたたんだ画用紙を強く握りしめる。
私は、かける言葉すら見つからなくて、ただ彼をじっと見つめた。
佐藤くんの視線の先には、一体誰がいるのだろう。儚げな瞳の奥に、一体誰が映っているんだろう。
同じように、視線を前に向ける。顔も見たのこのない、名前だけしか知らない佐藤くんのお母さんと、柚月ちゃん。その二人の人影が、そっと庭の真ん中に佇んでいるような気がした。



