佐藤くんは甘くない



***


「柚月は、きっと俺のこと恨んでるんだって思ってたんだ」


ぽた、ぽた、寂しい音が響く。

よく、目を凝らしてみると小雨が地面へと降り注いでいるのが、見えた。しっとりとした空気のせいで、縁側の廊下は手で触れると冷たい。


佐藤くんは、ぼうっとそれを見上げながら、独り言のように呟いた。


「あの時、柚月が妹じゃなかったらって、柚月がいなかったらって、柚月が大嫌いだって、言ってしまった時。

 ……ああ、もう、柚月にお兄ちゃんなんて呼ばれる資格、ないんだって思ってた。


 俺は、あいつの兄で、大切な家族で、守るってあげなきゃいけなかったのに。……だから、恨まれてもしょうがないって、思ってた。思い続けてた」


「……」


佐藤くんが、折りたたんだ画用紙を強く握りしめる。


私は、かける言葉すら見つからなくて、ただ彼をじっと見つめた。

佐藤くんの視線の先には、一体誰がいるのだろう。儚げな瞳の奥に、一体誰が映っているんだろう。

同じように、視線を前に向ける。顔も見たのこのない、名前だけしか知らない佐藤くんのお母さんと、柚月ちゃん。その二人の人影が、そっと庭の真ん中に佇んでいるような気がした。