佐藤くんは甘くない



悔しい?

想像もしていなかった言葉に、目を細める。


どうして、この人が俺に対してそんな感情を抱く必要がある?


お母さんの最期を看取ったはずなのに。俺には、二度話すことも、名前を呼ぶこともと叶わなかった。その願いを一番近くで、最期の最期まで叶えたはずなのに。



「……まあ、君にはきっとわからないだろうね」


「……どういう意味ですか」


俺がそういうと、彼は小さく自嘲するように笑った。

そうして、立ち上がると奥へ消えていく。しばらくして、何かを手に持ったまま戻ってきた。その何かに、見覚えがあった。


いや、それは今俺たちの目の前に置いてあるものと、まったく同じだった。


白い便箋。

宛名の書いていない、手紙。


お母さんが、俺に宛てた手紙。


新谷さんは、それをゆっくり俺の前に差し出す。


「あの人は、最期の最期、一体なんて言ったと思う」


「……え?」


手紙を凝視していた視線が、自然と上がる。


お母さんが、なんて言ったのか。

本当に、何もかもが終わってしまう寸前で、お母さんは、なんて。


呆れたように、悔しがるように、複雑な表情を浮かべながらなお、口元に笑みを浮かべて彼は言った。