一瞬だけ、新谷さんの瞳が見開くのを、見逃さなかった。


彼は、そうですか、と小さく呟いてそれから、お茶に手を伸ばして啜った後、


「……随分と、早かったですね」


こと、とこたつに湯呑を置きながら、独り言のようにしんみりと呟く。


早い……?

何が、早いというんだろう。


早くなんて、なかった。遅すぎるくらいだった。もうタイムオーバーだったのに。

何もかも、遅すぎたのに。



「俺は」


自然と、口から言葉が零れ落ちる。

もう、制御は効かなかった。



「俺は、どうしても知りたいんです」


「何をですか」


「お母さんの最期を、そして俺が知らないお母さんの11年間を」


「……」


「おばあちゃんから、全部聞きました。貴方と数年前に結婚したんだと。なら、知ってるんじゃないんですか。お母さんがどう過ごしていたのか、新谷さんは知っているんじゃないんですか。

 どうしても、知りたいんです。どうか、教えてください」


必死に、頭を下げた。

どれだけ惨めだと思われても、それでも構わなかった。ずっと、ずっと聞きたくて、聞けなくて、怖くて仕方がなくて、逃げ出して。知らないふりをし続けていた。


俺は顔を上げて───、



「お母さんは、俺のこと……何か、言っていましたか」


はっきりと、言った。