そして、自分の冷たくなっていく手のひらに、温かな含みがやってくる。


はっと、我に返ってぎゅっと瞑った瞳を薄目で開く。白い手が、俺の手に重なっていた。その腕から視線をたどっていく。


───結城が、小さく微笑んだ。


大丈夫ですよ、と耳の奥で聞こえた。



すうっと、心の中に渦巻いていた黒い不安の渦が薄れていく。俺は小さく息を吐いて、頷いた。結城が安心したように、重ねた手を握り返してくれた。



「───お待たせしました」


奥から、お盆に湯呑3つと、急須を乗せて、その男の人がやってくる。そして流れるような動作で、お茶を注ぐと、俺と結城、そして自分の前に置いて腰を下ろした。



「初めまして、……というべきかな。

 新谷真人といいます。キミたちは───」


「私は、結城こはるといいます。彼は、」


そういって、結城が俺の方に視線を向ける。自然と、重ねた手を強く握りしめる。怖い。地に足がついていないみたいで、今にも谷底に落ちてしまいそうで。


言葉に詰まりそうになる俺を、導くみたいに結城が握り返してくれる。ぐちゃぐちゃになった心が、解けていく。




唇を噛みしめた。そして、ゆっくり前を向いて───




「……俺は、佐藤那月といいます。


 ───永沢早苗の息子です」