お母さんに逢うのが、たまらなく怖かった。
誕生日の日、どうして来てくれなかったのか。
どうして、〝僕〟置いて行ってしまったのか。
頭の片隅で、これ以上に無いくらい理解していたその言葉を───お母さんの口から聞くことが、たまらなく怖かった。
だから、逃げ出して。
なのに、どうしてこんなに後悔しているんだろう。
罵倒されたって、お前はいらないって言われたって、たとえ許されなくたって───少しの勇気を振り絞れば、すぐそこに、あったのに。手を伸ばせば、届く位置に、あったのに。
「逃げ出すべきじゃなかった、こんなに後悔するくらいなら、たとえお母さんに嫌いだって、もう逢いたくないって言われても、逢うべきだったのに」
「……」
「もう、何もかも……遅いんだ、何もかも全部、だめだった」
何もかも、終わってしまった。
下ばかり見て、足踏みをしていたせいで───俺は結局、すべてを失っていたことに気付かずにいた。
視界が、ぼやけてうまく息もできなくて、聞こえる音は自分の泣き声と、空しくなく鈴虫の声だけ。



