佐藤くんは甘くない




「さ、とうく、」


離れようと、両手で押し返そうとする彼女をもっと強く、強く離れないように抱きしめて、俺は、呟いた。



「───いないんだ」


「……いな、い?」



ぴたり、と結城の手が止まる。自分と同じくらいの身長なのに、彼女の体は折れそうなほど細い。でも、優しくなんてできなかった。そんな余裕が、どこにもなくて。



これ以上を言葉にすれば、本当にいなくなってしまう気がした。


本当に、お母さんがいなくなってしまったんだって、認めてしまう気がした。



唇を噛みしめる。


ぼうっと、霞む視界の先に、あの優しく微笑むお母さんが立っていた。ゆっくりと、手を差し伸べて───ここにいるよ、お母さんここに、俺はここにいるよ。必死に、手を伸ばす、だけど、それは何の温かさもなく、ただ空を切るだけ。


寂しそうに、笑っていた。ただ、寂しそうに。


もう、触れられない。

もう、どこにも、お母さんはいない。


次に瞬きをした時───俺の目の前には、ただ薄暗い空間があるだけだった。




「───お母さんがっ、もう……もう、どこにも、いないんだ」