佐藤くんは甘くない



そうして、俺の方へ駆け寄ってくると、膝をついて俺の顔を覗き込んでくる。純粋に心配してくれている瞳だった。


「蛍見て、土手に上がったら……佐藤くんの姿が見えなくて……、佐藤くん……?泣いてるの?」


どうして、こんなにもこの声は心を震わせるんだろう。

どうして、こんなにもこの人は、〝僕〟の心の中に入り込んでくるんだろう。


すうっと、襖からのぞく月夜の光に浮き立った、白い手が俺の頬を触れる。温かくて、安心する。


「……っっ」


一瞬、止まったはずの涙がまた零れ落ちる。今度はさっきよりも、もっと何かが崩壊していくみたいにぼろぼろ、零れ落ちる。

嗚咽が漏れる。

言葉もろくに繋げない。

そんな状態の俺に、彼女は優しく頭を撫でながら、言う。


「大丈夫、大丈夫だから……」



あの時の、お母さんとぴったりと重なる。

どうしようもなく、苦しくなって。耐え切れなくなって。



「───」



身体が、勝手に動く。

反射的に、俺は彼女を抱きしめていた。