佐藤くんは甘くない





どうして、もっと早く気づかなかったんだろう。


どうして、もっと早く会いに行かなかったんだろう。



根拠のない未来を、どうして信じたりしたんだろう。



もう、二度とお母さんに逢えない。

謝ることも、できない。声を聴くことも、名前を呼んでもらうことも、大丈夫だって撫でてくれる優しい手ももう、ここにはない。


脚が鉛のように、重かった。視界が真っ黒で、今自分が立っているのか座っているのか、横たわっているのか、ここはどこなのか、何も分からない。


「ぁっ、あぁぅっく、」


誰かが、ずっと泣いていた。

嗚咽を何度も漏らしながら、せり上がる酸素の塊を何度も何度も飲み込んで、瞳から止めどなく流れ落ちるしょっぱい涙が、口に入り込んでいく。


嫌だ。

嫌だよ、嫌だ、お願いだから、もう何も奪わないで。


柚月を、お母さんを、奪わないで。