ぐっと、唇を噛みしめたその時───
「───佐藤くん、」
ぴたり、と俺を呼ぶ声とともに頬に冷たいものが伝う。
目を覆うようにしていた腕を、どかして見上げると───結城が、顔を覗き込んでいた。
その瞳は、包み込むように優しい温かさに満ちていて。
「……何」
「今から、おばあさんが蛍の見えるところに連れて行ってくれるそうッス!佐藤くんも行きましょう!」
「……結城、お前な」
ここに何しに来た分かってんの。
そう、言いかけて俺は口をつぐんだ。
……そんなこと、言える立場じゃない。
俺の方こそ、言えないでいる。
おばあちゃんに、お母さんはどうしたのかと、言えないでいる。



