もう随分、時がたっているからブロック塀の向こうは草が生い茂っているのが見えた。けれど、門扉に霞んだ文字で佐藤、と書かれていた。
その文字に、そっと手を当ててもう一度見上げる。
「……やっと、帰って来れた……」
もう、二度とこの家に帰ることはないと思っていたのに。
もう、二度とこの家に戻ることはないと思っていたのに。
懐かしさがこみあげてくるのと同じくらい、柚月の顔が思い浮かんで胸を苦しめる。
「……佐藤くん、」
後ろで心配そうに、俺に声を掛けてくる結城。
……心配させちゃいけない。
くっと、息を飲みこんで振り返った、その時。
「───もしかして、那月くん……?」
ふいに、横から声が聞こえた。その声に、心臓が急速に脈を打つ。
それは、そう。
お母さんに似た───優しい金木犀の様な、柔らかな声だった。焦る気持ちと、逸らしたくなる気持ちが混じりあって、ゆっくりと顔を上げる。
「ああ、やっぱり……那月くんね」
目を細めて、笑い皺が浮かぶ。お母さんに似た、人を安心させる笑みだった。
「……おばあちゃん」



