「そんな心配、まったくいらない」
顔を上げて、小さく笑った。
私の視界に映り込んだ瀬尾は、あまりにも小さくて、ただ私との約束を忠実に守ろうと必死だった。あの時と同じ瞳の色。
「大丈夫だよ、佐藤くんは優しい」
「……でも、」
「それともなに?私が佐藤くんに殴られたままの女だとでも勘違いしてんのか」
「……」
「瀬尾だって、分かってるはずだ。佐藤くんが本心から、ひまりちゃんを叩こうとしてしまったわけでも、あの場から逃げてしまったわけでもないって。……ただ、どうしようもなかっただけ」
「……」
「なら、信じてよ」
瞳が揺れていた。その瞳の中で、まっすぐ瀬尾を見る私が映り込む。
「───もっと、私を信じてよ」
私がそういうと、瀬尾は一度口を開いた。けれど、ぁ、と小さく呻いたその声は、やがて消えていく。
掴んでいた手の力がするりと抜ける。私は、瀬尾を振り返ることなくその場を後にした。



