佐藤くんは甘くない




嫌だ、聞きたくない。

聞きたくない。どうしても、私は、聞きたくない。


これ以上、瀬尾から何も、奪いたくないから。



「も、うさ何怒ってんだよ瀬尾わたし、」


「───聞け!」



びくりと肩が震えた。

さっきよりも張り上げた大きな声は、より強く響いて私の心に突き刺さる。



「結城、」


「いい、聞きたくない」


駄々をこねる子供みたいに、私はぶんぶん頭を振る。だけど、瀬尾は言葉を続ける。


「確かにあの時、朝比奈を真っ先に助けたことは正しい。すごいと思う。だからこんなこと思うの間違ってるし、場違いだけど」


「離して、瀬尾、離して」


「───だけど、それ以上に」


「うるさい、離して、離してっ」


聞きたくない。

聞きたくない。また、私が瀬尾から奪ってしまうその言葉を、私は、聞きたくない。

必死にもがいて、瀬尾から離れようとするたび、掴む力が強くなっていく。すうっと息を吸う音が聞こえて、私はぎゅっと目をつむった。





「───それ以上に、お前を殴ったアイツに腹が立ってる」