掴まれたその手のひらの体温を、私は知っていた。
だから、振り返りたくなかった。
いま───瀬尾がどんな表情をしているのか、どんなことを考えているのか知りたくなかった。
俯いた視線の先で、頼りない私のつま先が見えた。唇を噛みしめる。
「───結城」
瀬尾は、いつものおちゃらけた口調じゃない、低くそのまま怒りをぶつけるような口調で、私の名前を呼ぶ。
嫌だ。
聞きたくない。
私は自分を偽って、いつもみたいな面白おかしく軽口をたたく幼なじみに話しかけるように、
「ったく、なんだよ瀬尾ったらさ。一人で帰れないとか言う気かね」
「結城」
瀬尾の声を聴くたびに、私の口調が早口になっていく。まるで隠したい事実を、ボロボロの体で覆い隠すみたいに。
「ほら、佐藤くんが心配だしだから瀬尾、」
「───聞け」
瀬尾のはっきりとした口調が、廊下に響き渡る。



