何か言いたそうに、瀬尾が一度口を開くけれど、結局は何も言わなかった。
瀬尾が言わんとしていたことは、なんとなく分かっていた。
けれど、私は聞かない。……違う、聞けないんだ。聞いちゃいけない。
机の上に置いた鞄を肩に掛けて、じゃあと小さく手を振ると、
「わたしも、」
ひまりちゃんがそう言いかけて、すぐに口をつぐんだ。
「……大丈夫、佐藤くんはちゃんと私が引き連れてくるよ。月曜日には、元気な顔して登校させてやるから」
「……うん」
しゅん、と顔を下げるひまりちゃん。
私はその柔らかな頭をぽんぽんと撫でて、視線を上げる。瀬尾がこっちを見てた。複雑な表情を浮かべて、ただ何も言わず。
きっと、一番聞きたくない言葉を、隠し持っている。でも私は、卑怯だ。
私はそれを見ないふりする以外にない。無言で教室を後にする。
廊下に人はいなかった。私一人だけの足音が響く。
瀬尾のことがうかんで、無意識に忘れようと、もう一度鞄を掛け直したそのとき。
「結城」
腕を、掴まれた。



