「倒れ込んだ奴を掴んで、いい趣味してるね」
ああ。
この低い声は、いつか聞いた、怒ったときの声だ。そして、それは数倍も黒く、奥底から出したような声だった。
「楽しい、それ?」
うっすらと、口元に笑みを浮かべる。冷たく、氷のように、見たものを凍らせるような笑み。
「ねえ、答えてよ」
「いぐ……!」
男が悲鳴を上げた。そう、彼が阻んだ手をひねり上げたのだ。ぼうっとした視界の中でも分かるほど、強くひねり上げていた。
男の顔が、だんだん青くなっていく。ひねり上げられた手のせいで、痛みのあまり声すらでないのか、口から洩れる声はくぐもった老婆のよう。
周りにいた取り巻き達も、慌てたようにざわざわし始めるけれど、誰一人として助けようとしない。
「教えてよ、分かるように。結城を苦しめて、楽しいの?」
「たす、け……っ」
───助けて。と、掠れた声でそいつが口にした。
痛みの波が襲ってくるたび気が遠くなる。それでも、掴まれた左肩を押さえながら、
「───さ、とうくん。やめ、て。もう、いいから」
そう、口にした。



