佐藤くんは甘くない






「───離せ」





一瞬、茶髪の男の顔がひるんだ。

そして、私は気づいた。ああ、私は怒ってるんだ。自分で思っているよりも。


この男にも、そしてすぐにひまりちゃんを助けてあげられなかった自分に。



「なに、いきなり積極的だねぇ」


ひるんだ自分が恥ずかしかったのか、悔しかったのか、口元を歪めて茶髪はそういった。


耳障りだった。

こんなにも人の声が、気持ち悪いと思ったことも、たぶんなかっただろう。



「離せ」


もう一度、私ははっきりとした口調で。まっすぐ、そいつの目を見ながら言った。


茶髪はみるみる顔を赤くさせて、怒りをあらわにしたように私に掴まれていた手を振り払う。


その瞬間、振り払った反動で左肩に不自然な痛みが走った。

嫌な予感がした。一瞬、あの時音が、雨の音が、頭の中にかすめる。私はそれでも、囲んだ奴らを睨みつけたまま視線を下げない。