「でも、佐藤くんの教え方はすごい分かりやすかったよ」
ひまりちゃんが、広げられたノートをめくりながら感心したように言った。
「……う、ん。……それほど、でも」
いつもの無表情が崩れてしまうくらいに、佐藤くんの口元が吊り上っていた。うれしいならうれしいって言えばいいのに。まったく素直じゃあないんだから。
「今度テストのとき、ノート貸してくれる?」
「……ん」
小さく、こくりと佐藤くんが頷く。
「よかった」
ひまりちゃんがふわりとほほ笑む。綿菓子みたいに甘い笑み。
その笑みに、佐藤くんは何にも言えずにふいっと視線を逸らす。耳が真っ赤なままで。
この短い時間で、この場の雰囲気が随分柔らかくなったのを感じた。
きっとそれは、ひまりちゃんがいるから。
あんなに最初は緊張していた佐藤くんも、ひまりちゃんが優しげに微笑むたびぎこちないけれど、だんだんと受け答えするようになっていく。
これもひまりちゃんの持っている力、みたいなものなんだろうな。
ひまりちゃんのそばはとても安心するから。
どんなに嫌っていたとしても、きっと最後は好きになる、そんな不思議な雰囲気を持っていた。



