臆病者達のボクシング奮闘記(第四話)

 黒木の外側から巻き込むように放った左フックが、相手の側頭部辺りにヒットした。

 相手はロープ際で崩れ落ちた。

 すぐに立とうとした相手だったが、バランスを崩して仰向けになった。

 カウントはファイブまで進み、相手はもう一度立とうと片膝を付いたものの、立ち上がる時にバランスを崩して再び横になった。

 これを見たレフリーは、カウントの途中で試合をストップさせた。

 相手は意識がしっかりとしているものの、自分で立ち上がる事が出来ず、セコンドの助けを借りて、ようやくリングから降りる事が出来た。


 会場がザワザワとどよめく。


 飯島が言った。

「アレは耳の裏側に当たったんだろうな」

 康平が訊いた。

「梅田先生も言ってたんですが、耳の裏側ってどうして効くんですか?」

「耳の裏側には三半規管があるからさ。ココにピンポイントでパンチを貰うと、平衡感覚がおかしくなってしまうんだよ」