青コーナー側の椅子に黒木が座った。

 黒木に深呼吸をさせたセコンドは、自分の左胸に手を当てて、しきりに言い聞かせていた。セコンドは、黒木の父親のようである。

 声が大きかった事もあって、セコンドの言っている事が康平達にも聞こえた。

「お前はこのスタイルで戦えるんだから、後は気持ちだけなんだよ」


 飯島が言った。

「石山、黒木が負けた試合で倒された時は、どんな感じだったんだ?」

「かなり効いてましたね。立った時も足がふらついていて、RSC負けになってもおかしくない状況でした。……でもそれで終わると、RSCHになって、この大会には出られなくなったんですよね」


 健太が質問した。

「RSCHのHは、どういう意味なんですか?」

「ヘッド、要は頭って事さ。頭部にパンチを貰って倒されてRSC負けだったら、Hが付いて、四十日間は試合に出れなくなるんだよ。……ダメージのある競技だからな」

 石山が言い終わると、飯島が再び口を開いた。

「激しく倒された後の最初の試合は、誰でも怖いんだよな」