清水が訊いた。

「先生、どうしたんですか?」

「黒木はビビってないか?」

「……言われてみるとそうですね」

 清水が頷くと、石山も話に加わった。

「アイツ、国体の時は二回倒されてんですよ」

「新聞で結果を見たんだが、負けた試合は判定だったんじゃないか?」

「確かにそうなんですけど、試合終了間際で派手に倒されたんですよ。辛うじて立ったんで、RSC負けは免れたんですけどね」

「……お前、二回倒されたって言ってたよな? もう一回倒されたのも負けた試合でか?」

「いや、違いますね。初戦は判定で勝ったんですが、その試合でです。……相手はそんなに、パンチがあるようには見えなかったんですけどね」


 清水が言った。

「もしかしてアイツ、グラス・ジョーなんじゃないですか?」

「清水先輩、グラス・ジョーって何ですか?」

「ガラスみたいに脆い顎って事さ。顎の噛み合わせが悪い奴とかは、ココに軽いパンチでも当たると、簡単に倒れちまうんだよ」

 康平が訊くと、清水は自分の顎を、横から平手でペチペチ叩いて説明した。