臆病者達のボクシング奮闘記(第四話)

 荒川は意外な程効いていた。立ったものの足がふらつき、セコンドの肩を借りて、やっと青コーナーにある椅子へ座る事が出来た。

 一分程前、盛り上がっていた立花高校のボクシング部員達は、静まり返った。


 有馬が飯島に訊いた。

「相手は、大崎先輩のどのパンチで効いたんですか?」

「左フックだよ」

「……空振りしたように見えたんですけど」

「顎をかすったのさ。顎をかすると、テコの原理で頭が揺れ易いんだよ」

 飯島は、他の一年生達にも言った。

「お前ら顎は打たれるなよ。足がいうことを効かなくなるんだからな」


 続けて飯島は横山に訊いた。

「横山、大崎とどっかで練習してたのか? ……お前の指示、的確だったからさ」

 気の弱い横山は、ビクッとしながら振り向いた。

「……えぇ、団地の駐車場で少し……」

「団地の駐車場?」

「僕とワタッちゃ……いや、大崎は同じ市営団地に住んでるんです」