臆病者達のボクシング奮闘記(第四話)


 荒川が下がり、大崎が追う展開になった。

 自分の間合いに近寄れない大崎は、手数が減っていった。


「大崎、追っ掛けちゃ駄目だ。先回りするんだ!」

 飯島が叫んだ直後に、横山が声を張り上げた。

「ワタッちゃん、フェイントと横の動きだよ!」


 その声に反応した大崎は、フェイントを加え、横に動き始めた。

 今にも飛び込みそうなフェイントに、荒川は一瞬足を止めて迎撃するような反応をした。そして、大崎の横への動きは、荒川のフットワークを先回りする格好になった。

 間合いが近くなり、大崎の手数が増えた。


 ハーフタイムも近くなった時、荒川がロープを背にした瞬間があった。


「大崎、今だぞ!」飯島の声が響く。

 大崎は荒川の左ジャブに合わせ、右パンチを被せた。右のクロスカウンターだ。