友達が目の前で倒されてショックなのだろうと思い、清水が言った。

「石山、大崎は大丈夫なのか?」

「こういう時こそ、大崎はいいボクシングをするんだよ」

 そう答える石山だったが、内心は心配だったのか、リング上にいる大崎に声を掛けた。

「大崎、力むなよ」

 大崎は口を一文字に閉じたまま頷き、軽いステップを踏みながら、両手を一度ダランと落として肩を二回上下させた。



 試合が始まった。

 大崎はいつものような膝でのリズムは取らず、スリ足で少しずつ前に出た。時折小さなダッキングを加えて頭の位置を変えている。

 この日の対戦相手も、長身のオーソドックススタイル(右構え)である。相手は一定の間合いを取ろうと、大きなステップを使って回り始めた。


 相手が赤コーナー近くで動いていた時、大崎が右パンチを打つフェイントをすると、相手は左ガードを高く上げながらバックステップをした。

 相手がロープにぶつかった。

 その瞬間、大崎はスーっと距離を詰め、まとめてパンチを打ち出した。練習で打っているようなスピードの乗ったパンチだ。