「あそこでね、キレイな月を見たんだ」


雪は不思議そうな目を向けた。


「月は、いつもキレイじゃない?」

「格別だったんだ」


雪は顎に指を当てた。


「…あたしが月好きって、言ったよね」

「覚えてるけど」

「それ見たのって、いつ?」

「入学式の日かな」

「なに月だった?」

「は?」

「満月とか、新月とか」


「あぁ…。えっと…。ごめん。忘れた」


雪は指を軽く振った。


「近衛くん、初心者だね」

「は?」

「キレイな月を見たら、なに月か、ちゃんと見なきゃ」

「なんで?」

「次、いつ見れるか判るでしょ」

「なるほど」


雪は溜め息をついた。


「判らないんじゃねぇ」

「また来ればいいんじゃない?」


雪は顔を上げた。


「そのときは、付き合ってくれる?」

「いくらでも」


雪は白い歯をのぞかせて笑った。


「約束だよ」


見えないように、ガッツポーズ。


なにか、天罰でも下りそうだなぁ。